聞こえる人にも聞こえない人にも、多くの方に読んで頂きたい記事を紹介します。シェアをして頂けると嬉しいです。
聞こえる方には、特に読んでほしいなと思います。
そして、もし自分がある日、突然聞こえなくなったら何が出来るのか?自分だったらどうする?かを考えて欲しいなと思っています。
記事が消えるといけないのでそのまま転載します。
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学校でのいじめ、職場での無理解で適応障害に…「ろう者」が直面してきた理不尽な人生
中央省庁などで障がい者の雇用数が水増しされていた問題。
チェック体制の甘さなど様々な問題が指摘されているが、そもそも障がい者が社会に出て働くことに対する理解は進んでいるのだろうか。
『ろう者の祈り』の著者・中島隆さんが、あるろう者の男性から、耳の聞こえないことによって直面する厳しい現実を聞いた。
彼は、やさしくて、笑顔がよくて、落ち着いた雰囲気の男だ。
聴者たちのなかの職場で、一生懸命に働いた。
あるNPOに参加し、ろうの子どもたちに勉強を教えてもいた。それなのに……。
幼稚部だけろう学校。
小学校からは、聞こえる人といっしょに学校に通った。
聞こえないなんて怪しい人間だ。そう思われて、仲間はずれにされたことがあった。
いじめられたこともあった。
聴者である父親と母親は、彼に言った。
「がまんしなさい」
「負けずにがんばれ」
学校では、教師にイヤというほど言われた。
「きみは聞こえないのだから、聞こえる人たちより2倍がんばらなければならない。努力だ、もっと努力だ」
勉強をがんばった。
でも、授業での会話がわからなかったのが、辛かった。
中学生になった。
勉強が難しくなった。
それなのに、教師は黒板に向かってチョークで書きながら何か話している。
<先生、あなたの口の形が見えないんだ。何をしゃべっているの?>
彼は、教科書を読み込んだ。
けれど、あいまいにしか理解できない。
そうして、数学が苦手になっていった。
理科も苦手になった。
英語もダメになっていった。
けれど、両親は言った。
「勉強しなさい、努力しなさい」
「がんばれ!」
彼は、両親に訴えた。
「先生の言っていることがわからないんだ」
けれど、両親はこう言うだけだった。
「がまんしなさい。がんばりなさい」
「負けたらだめだ」
いじめられた。
そして、悪口を言われた。
彼がいない場所でひそひそと陰口、ではない。
彼がいるところで言われた。
聞こえないから大丈夫と、考えたのだろう。
<たしかに、何を言っているかはわからない。でも、ぼくの悪口を言っていることぐらい、わかる。バカにするな!>
聴者が通う高校を受験したが、失敗してしまった。
なので、ろう学校の高等部に入った。
幼稚部のときの同級生たちと9年ぶりに再会した。
がまんの日々から解放された。
ほとんど手話を知らなかったので、懸命に覚えた。
ろう学校の3年間を満喫した。
ろう者の世界は、居心地がよかった。
でも、時間は止まってくれない。
イヤでも卒業を迎えることになる。
働かなくてはならない。
そして、彼は、聴者たちの世界に戻ることとなった。
仕事は事務。
コミュニケーションは筆談だが、文章を長々と書くわけにもいかない。
けれど、聴者たちは、彼にさまざまな配慮をしてくれた。
<ぼくのことを理解してくれている。うれしい>
彼は、自分たちろう者について、反省した。
<自分たちも、権利ばかりを主張してしまっていたのかもしれない>
<ろう者も、しっかりマナーを身につけなくてはだめなんだ>
ぼくは、この職場でがんばる。
聴者のみなさんと、ともに歩いていくんだ。
彼は前向きに仕事に取り組みはじめた。
けれど、めでたし、めでたし、では終わらなかった。
4月に経営体制が変わり、職場にあらたな上司が来た。
その人は、聴覚障がい者に、まったく理解がなく、こう言い放った。
「聞こえる人も聞こえない人も、関係ない。自分のことは自分でするように」
職場から、いっさいの配慮がなくなった。
そして、聞こえる後輩社員が、彼にこう言った。
「ぼくの仕事が10なら、あなたは2だ。みんなの仕事が10なら、あなたは2だ」
心にグサッときた。でも、なんとか仕事をこなしてきた。
けれど、しばらくして、頭が熱くなるようになった。
仕事が手につかない。そんな様子を、まわりの聞こえる人たちは見ている。
でも、会話ができないので説明することは不可能だ。
病院で医師に告げられた。
「適応障害ですね」
ストレスに適応できないため、心や体にいろいろな症状が出て、日常生活をうまく送れなくなる病である。
職場には言えない、言えない。
彼はしばらく相談できずにいたが、耐え切れず上司に告白した。
すると、またたく間に話が広がった。
「あいつ、適応障害だってさ」
休職に追い込まれた。
NPOでしていたろうの子どもたちを支援する活動も、休ませてもらった。
気分転換に、SNSに投稿したことがあった。
職場の人が連絡をくれた。
「あの人、休職中なのに遊んでいるらしい。そう言われていますよ」
<ぼくはどうしたらいいんですか?>
休職で心が回復したとする。
そして、職場に戻ったとする。
でも、彼が仕事に打ち込めるはずがない。
なぜなら、そこにいるのは、彼を追い詰めた人たちばかりなのだから。
わたしたちは同情するだけでいいのだろうか。
みなさんがろう者のことを理解し、変わらなければ、同じことを繰り返すだけだ。
いま、この瞬間も、ろう者が苦しんでいる。
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