全国の警察署・消防署でもこのような取り組みが広がることを願っています。

神奈川新聞より全文引用

聴覚障害者を手話で救う 二宮町消防署員が自主講習

聴覚障害のある人を救急搬送する場合などに役立てようと、二宮町消防署の署員がこの春から自主的に手話を学んでいる。

9人が非番の時間を利用し、週1回の講習を受けているが、実際に搬送時に習いたての手話を活用したこともあるという。

「100人を救っても1人でも救えなかったら意味がない」。

署員たちは使命感に燃えている。

二宮町民センターの会議室に、少し遅れて当直明けの署員2人が姿を見せた。

中郡聴覚障害者協会の橘川透会長(74)を講師に開かれている町の手話講習会。

参加者十数人の間にすぐさま交じり、持参のテキストを開いて手話での会話を練習し始める。

5月にスタートした講習は来年3月まで40回。

前日は午前8時から勤務し、夜に2件あった救急出動のため仮眠の時間はほとんどなかったという。

それでも、第3警備隊の高木孝治隊長(47)は「1人でも多く救えると思えば苦にはならない」と、合間を見つけては履修を欠かさない。

講習会を受けている署員は9人。

うち6人が救急隊に名を連ねるが、既に現場で役立ったこともある。

習い始めて1カ月後の6月、聴覚障害がある10代の女性の母親から、娘が急病で倒れたという119番通報があった。

幸い女性に意識があり、救急分隊の大和草平分隊長(38)は手話で自己紹介。

苦しんでいた女性の表情がわずかに緩んだという。

その1カ月後、再び同じ女性が救急搬送されたが、今度大和さんは手話で症状を確認。

救急車の中では、同じく救急分隊の伊藤遙隊員(25)が手話を交えて病院に付き添った。

「一人で救急車に運ばれ不安もあったはず。少しでも和らげられたら、手話を学んだかいもあった」。

大和さんはそう振り返る。

事の始まりは、2月に高木隊長が町主催の要約筆記者の講習を受けたこと。

「障害者について知らないことが多いのに驚いた。災害の現場で必要とする時があるはず」。

署内で手話を習おうと同僚らに呼び掛けたところ、消防隊員36人のうち4分の1に当たる9人が手を挙げた。

高木隊長が「必要とする時がある」と言うように、聴覚障害者らが救急搬送時や災害時などに困難に直面するケースは少なくない。

二宮町をはじめ、各自治体はファクスやスマートフォンなどで119番通報できる仕組みを導入。

搬送する際は指さし用のボードを使用したり、紙による筆談でコミュニケーションを図るのが一般的という。ただ時間や手間がかかり、意思疎通は容易ではない。

全日本ろうあ連盟によると、東日本大震災では障害者の死亡率は住民全体の2倍だったといい、情報格差が問題視されている。

聴覚障害の当事者である橘川会長は「(7月の)台風12号の時には町の広報車も回っていたが、警報などの情報は障害者に届きにくい。

命を守るためにも多くの人にもっと手話が広がってほしい」と期待する。

高木隊長も課題を感じており「救急搬送では手話通訳のボランティアを呼ぶこともあるが、消防署員で自己完結できるようになればいいし、手話が通じる人がいれば搬送者の不安を軽減にもつながる」と話す。

今では署内の日常のあいさつでも手話を交えるようになった。

伊藤隊員は「日常会話をできるようにしたい」と意気込み、高木隊長は「いずれは手話で障害者向けに救命講習を開きたい」と目標を掲げている。